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【後藤伸おすすめ】刹那の言葉を生きた、魂の詩人・中原中也!あなたもきっと彼の詩が好きになる!?

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「芸術を遊びごとだと思つてるその心こそあはれなりけれ」

 

(『中原中也詩集』岩波文庫)

 

その言葉通り、身も心も文学・詩に捧げた魂の詩人・中原中也

『文スト』や『文アル』でその名を知る方も多くなった中也について、皆さんはどんなイメージをお持ちですか?

今回は、日本文学史に燦然と名を刻みながら、近年のメデイアミックスブームで人気沸騰の詩人・中原中也についてご紹介します。



中原中也、詩人としての目覚め

1907年(明治40年)、山口県に医師の長男として誕生した中原中也は、すくすくと育ち、やがて周囲からは「神童」だと評判になります。

しかし、そんな中原中也が8歳のとき、弟の亜郎の死をきっかけに、文学に目覚めます。

 

その後、詩や短歌にのめり込んでいく中也は中学校に入学しますが、詩歌のために勉強をおろそかにし、成績はみるみる悪化。住み込みの家庭教師がついた中也ですが、成績は悪化を続けます。詩歌に没頭する中也は、勉強はろくにしない代わりになんと15歳で飲酒を覚えたそうです。そんな暮らしぶりですから、中学校を落第してしまいます。

 

普通なら、いい加減反省しても、勉強に集中してもよさそうなものですが、中也は違います。医者になってほしいという父親に反発し、、、

1923年(大正12年)、なんと京都に単身飛び出してしまうのです。

そして、これを機に、中也の詩人としての生活は一気に加速します。

次章では、中也の詩人としての日々について、ご紹介します。



運命の出会い!? 女優・長谷川泰子と作家・小林秀雄

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京都に移り住み、より詩作に没頭する中原中也ですが、友人の紹介で、女優の卵・長谷川泰子と出会います。

そう、これこそが運命の出会いでした。中也の詩に泰子は共感し、二人は急速に距離を縮め、ほどなく同棲を始めます。当時中也17歳、泰子20歳の、若い二人の同棲生活です。

 

今だったら、ほとんど考えられない、フィクションのようなお話ですね。こんなことができるのも、大正時代という古き良き時代の懐の広さのいかげなのかもしれませんね。

ともかく、こうして中原中也は詩人としての人生を歩み始めます。まるで文学の神様が中也の詩人としての人生を後押ししているかのように、運命の出会いは重なります。

 

泰子との同棲の翌年、今度は二人で上京し、現在の新宿のあたりで下宿暮らしをスタート。そして、後の超有名作家・小林秀雄と、二人は出会います。中也と小林秀雄は互いに才能を評価し合い、交流を深めます。

小林秀雄という文学の仲間を得た中也は、恋人・泰子と円満な暮らしを続け、幸せな日々を送ることに、、、、はなりませんでした。

 

なんと、それからたったの半年ほどで、泰子は中也のもとを去り、小林秀雄のもとへ行ってしまうのです。

しかし、その後も中也は文学の友として小林秀雄と交流を続けます。

むちゃくちゃというかなんというか、、、やはり詩人は一味も二味も違う感覚の持ち主なのでしょうか?

ちなみに、中原中也長谷川泰子小林秀雄の人間模様については、さまざまな書籍から知ることができますが、中でも筆者がオススメしたいのは、漫画家・月子さんの『最果てにサーカス』(全3巻)です。

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3人の三角関係を、小林秀雄の視点から描いた恋愛青春漫画です。

漫画なのでわかりやすく、絵も綺麗なのでその世界観に引き込まれること間違いなしです!

現代だったらクラフトビールなんかを飲んでオシャレに街歩きをしていたかもしれない3人の姿が、美しく浮かんでくるので、たまりません!

 

漫画繋がりでもう一つ。こちらの吉田基已さんの『夏の前日』(全5巻)の中でも中也の詩が引用されています。

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ちなみにこの漫画『夏の前日』は、京都の街を舞台に、画家を目指す芸大生・青木哲夫と、彼よりも年上の画廊店長・藍沢晶が織りなす恋愛模様が中心に描かれた青春ストーリーです。

その詩がこちら



冬の夜

 

みなさん今夜は静かです

薬鑵(やかん)の音がしています

僕は女を想(おも)ってる

僕には女がないのです

 

それで苦労もないのです

えもいわれない弾力の

空気のような空想に

女を描(えが)いてみているのです

 

えもいわれない弾力の

澄み亙(わた)ったる夜(よ)の沈黙(しじま)

薬鑵の音を聞きながら

女を夢みているのです

 

かくて夜(よ)は更(ふ)け夜は深まって

犬のみ覚めたる冬の夜は

影と煙草と僕と犬

えもいわれないカクテールです

 

 

いかがでしょうか?

独特の静かな雰囲気の中に、少しの胸のときめきと、少し複雑な感情の揺れ動きが伝わってきませんか?

この詩は、二人が初めて肌を重ねた翌日、晴れた空を見上げながら芸大生・青木哲夫が口ずさむのですが、これがまたなんともカッコイイシーンなのです!中原中也の詩だけでなく、ぜひこちらの漫画もチェックしてみてください!

 

中原中也の国民的評判作をご紹介!

さて、おまたせいたしました。それではいよいよ、夭折の詩人・中原中也の作品から、評判作をご紹介します。

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一つのメルヘン

 

秋の夜(よ)は、はるかの彼方(かなた)に、

小石ばかりの、河原があって、

それに陽は、さらさらと

さらさらと射しているのでありました。

 

陽といっても、まるで硅石(けいせき)か何かのようで、

非常な個体の粉末のようで、

さればこそ、さらさらと

かすかな音を立ててもいるのでした。

 

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、

淡い、それでいてくっきりとした

影を落としているのでした。

 

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、

今迄(いままで)流れてもいなかった川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れているのでありました……

 

 

この作品、国語の教科書にも掲載されるほど有名な作品なので、「自分も高校の授業で習った!」という方もいると思います。

なんとなく悲しい気分は伝わってくるものの、いったいなぜ悲しいのかははっきりと示されていませんね。それこそが中也の詩の最大の魅力の一つなのです。理由や原因がはっきりと示されていないからこそ、私たち読者が、それぞれ自分の感情をそこに当てはめて味わうことができるのです。

 

現代詩人の穂村弘さんも、中原中也について、

「詩人という存在ののイメージの原型のような人だ」と表現しています。

小柄で目が綺麗で、早熟の天才、生き急ぐように夭折してしまった中也、、、、

なるほど、たしかに中原中也の写真を見ると、いかにもな感じの美青年で、もし現代に活躍していたらきっとファンからの黄色い歓声が止まなかったでしょうね。

 

それでは最後に、筆者が最も気に入っている詩をご紹介します。

 

渓流

 

渓流(たにがは)で冷やされたビールは、

青春のやうに悲しかつた。

峰を仰いで僕は、

泣き入るやうに飲んだ。

ビシヨビシヨに濡れて、とれさうになつてゐるレッテルも、

青春のやうに悲しかつた。

しかしみんなは、「実にいい」とばかり云つた。

僕も実は、さう云つたのだが。

湿つた苔も泡立つ水も、

日蔭も岩も悲しかつた。

やがてみんなは飲む手をやめた。

ビールはまだ、渓流(たにがは)の中で冷やされてゐた。

水を透かして瓶の肌へをみてゐると、

僕はもう、此の上歩きたいなぞとは思はなかつた。

独り失敬して、宿に行つて、

女中(ねえさん)と話をした。

 



こちらなんと、死のわずか3ヶ月前に作られたとされる詩なのです。

幼年時代から死ぬ寸前まで、いやぞの死後も、中也の魂は純粋な詩への炎を燃やしていたことがわかりますね。



まとめ

さて、いかがでしたか?

独特で繊細な孤独と哀しみを表現し、詩に人生を捧げた魂の芸術家、詩人の中原中也をご紹介しました。

詩とは何かを全身で考え続け、燃える炎のように激しく駆け抜けた中原中也の人生について、少しでも知っていただけたなら幸いです。