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【後藤伸が評判の作家を紹介!】言わずと知れた国民的スター!?日本を代表する文豪・夏目漱石の恋愛小説を読んで、あなたも恋愛マスターになろう!!

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明治・大正時代を代表するだけでなく、今や日本文学をも代表するほどの知名度を誇る夏目漱石。国語の授業で『こころ』や『坊つちゃん』、『夢十夜』を読んだことがある、という人も多いのではないでしょうか。

今回は、そんな夏目漱石の数多くある作品の中からから、「恋愛」がテーマとなっている作品をご紹介していきます。

国民的な小説家の作品から恋愛を学べば、あなたも恋愛マスターになれるかも知れませんよ……(笑)

 

国民的小説家!夏目漱石の生涯をご紹介!

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言わずと知れた日本が誇る文豪・夏目漱石
日本を代表する文豪として、千円札の肖像にも採用されるほどの人物ですので、皆さんもきっと一度はその顔を目にしたことがあるはずです。そんな夏目漱石の小説を詳しくご紹介していく前に、まずはこの章では、そのプロフィールをご紹介したいと思います。

 

平易な文体で数多くの作品を発表した夏目漱石は、現代でもその多くが読み継がれていますが、実は生まれたのは今から150年以上も前なのです。

夏目漱石は1867年、元号でいうと慶応3年生まれです。この慶応3年というのは、大政奉還や王政復古など、日本史上とても重大な出来事が起こった年でもあり、江戸時代から明治時代に移り変わる年とも言えます。そんな新時代の幕開けとともに誕生したのが、夏目漱石なのです。

そう、彼は急速に近代化を迎える日本とともに生まれ育った作家なのです。まさに時代の申し子ですね。

 

そして1893(明治26)年、現在の東京大学、当時の東京帝国大学を卒業した夏目漱石は、東京高等師範学校で英語教師になりました。漱石は大学在学時、非常に優秀な成績を収めています。特に英語や英文学にずば抜けていたようです。

 

しかし、この頃から漱石の人生に暗い影が差しはじめるのです。肺結核や神経衰弱に悩まされ、治療もうまくいかなかったためか、1895年(明治28)年に職を辞し、ツテを辿って愛媛県松山市にある学校に、教師として赴任していきます。

ちなみにこの松山というのは、実は漱石が親交の深かった俳人正岡子規の故郷でもありました。

 

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病の静養を兼ねて正岡子規と過ごした日々は、漱石のその後の作家人生に大きな影響を与えたと言われています。

その後も、熊本で英語教師を務めていた漱石ですが、英語教育を研究せよとの文部省の命を受け、1900(明治33)年、ロンドンへ留学することになります。

今の日本では、教師の社会的地位や待遇はひどく低いですが、当時の教師というのは生徒や保護者からはもちろん、世間からも尊敬されるエリートでした。しかも東京帝国大学卒業ですから、漱石はエリートの中のエリートだったようですね。

 

また、こうした体験が後に、松山の学校を舞台に繰り広げられる物語『坊つちゃん』や、九州の田舎から帝国大学に入学するために汽車で上京する主人公を描いた『三四郎』につながったとも考えられます。

帰国後には、東京帝国大学での講師などを経て、徐々に作家としての活動を本格化させていきます。

そして、『吾輩は猫である』、『坊つちゃん』などを発表し、着々と人気作家としての地盤を築いていきます。

 

そして1907(明治40)年、朝日新聞社に入社し、『虞美人草』の連載を開始した漱石は、本格的に職業作家としてのキャリアをスタートさせるのです。

 

人間嫌い!?ペシミスティックな人間模様を描いた夏目漱石!  

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さて読者の皆さんは、夏目漱石の小説というと、どのようなイメージをお持ちですか?

「教科書に載るくらいだから、道徳的で教育的な作品なんじゃないか?」と思う人もいれば

「坊つちゃん」のような鮮やかでちょっぴりほろ苦い青春ストーリーを想像する人もいるかと思います。

他にも、同じく教科書にも載っているほどの有名作『夢十夜』のようにどこかメルヘンなお話や、『こころ』のような人間関係にまつわる嫉妬や後悔などの心情を描くことでも知られている夏目漱石

 

実際、彼は様々な特徴を持つ作品を数多く発表しました。

そんな中でも、多くの作品に共通する部分……それはずばり!「人間のエゴイズム」、そして他人から見れば愚かに見えてしまうが本人にとっては切実な、「人間臭さ」

つまり、私たち「人間」という存在を真正面から見つめ、それを小説に昇華した作家が、夏目漱石だと言えます。

現代の作家を見渡してみても、これほど人間への深い洞察力を持った作品を書ける作家はそう多くありません。

人間というものの存在に対する深い洞察のまなざしを持っていた、稀有な作家だと言ってよいでしょう。

 

ロンドンへの留学経験が、夏目漱石のそうした人間へのまなざしに磨きをかけた、とも考えられています。

漱石は、近代化する日本社会を生きる人々の愚かさや傲慢さ、エゴイズムなどを丁寧に見つめ、作品に描いていきます。

 

それまでの日本では、武士や農民などの身分階級や所属するコミュニティの中で求められた役割を果たして生きることが求められていましたが、西洋の近代社会の考え方を輸入しはじめた明治時代以降は、個人として一人一人がどうあるか、といった部分がフォーカスされていきました。

そんな時代の過渡期に、新しい世界を生きていく人間の姿を模索し、作品で表現したかったのかもしれませんね。

 

それでは、次章で実際に夏目漱石の作品をご紹介します。

 

エゴと愛の狭間を生きる!葛藤に満ちた近代人の恋愛を見よ!!

 

この章では、漱石の作品の中から筆者の偏見で厳選した作品をご紹介したいと思います。いわゆる前期3部作と呼ばれている、『三四郎』『それから』『門』の3作品から、『三四郎』・『それから』をご紹介します!

 

まずは三四郎

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主人公は熊本から上京して帝国大学に入学する青年・三四郎です。なんともストレートなタイトルですね(笑)

都会に出てきた青年が、様々な出会いや学びを通して変化していく様子を描いた『三四郎』は、一般的にはビルドゥングス・ロマン、いわゆる教養小説として知られているのですが、実は恋愛小説としてもかなりの面白さがあります。

 

まずは冒頭、三四郎が上京するために汽車に乗っている場面からはじまるのですが、なんと偶然乗り合わせた女性と途中の名古屋の旅館に1泊してしまうことに。いきなりのドキドキな展開ですよね(笑)

しかしですね、ここで主人公・三四郎は読者の期待(って筆者だけかもしれませんが笑)も相手の女性の期待も一度に裏切ってしまいます。

 

そう。布団を並べて寝たというのに、一切相手の女性に触れなかったのです。これには相手の女性もがっかりしたらしく、翌朝、女性は三四郎に向かって、「あなたはよっぽど意気地なしなんですね」と冷ややかに言い放ちます。

うーん、田舎から出てきた三四郎青年、生真面目なのでしょうか……。

 

その後、同郷出身の教師・野々宮や帝国大学の学友・佐々木などと交流をする一方、謎多きヒロイン・里見美禰子との交流も深めていきます。

三四郎と美禰子の恋の行方は、ぜひ小説を読んでたしかめてみてくださいね。

 

お次は『それから』です。

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三四郎』が素朴な青年が魅力的な女性と出会い、恋愛を通して成長していくという、いわばシンプルなストーリーだったのに対して、『それから』は一転して大人のビターな、いや、苦すぎる愛と葛藤の物語です。

 

主人公の長井代助は、定職にもつかず、実家からの援助で悠々自適な暮らしを送るアラサー男。

そんな彼とは対照的な親友・平岡は大学卒業後に銀行マンになるというエリートぶりを見せます。

そして、平岡の妻というのが、かつて主人公・代助も密かに想いを寄せていた女性・三千代です。

しかし、平岡の仕事での挫折をきっかけに、平岡・三千代夫妻と再び関係を持つようになった代助は、次第に三千代に想いを募らせていき……

悲劇的とも取れる怒涛のクライマックスは、現代人必読です!

現代でもなお生々しくリアリティをもって読者の胸に響くこと間違いなしの、愛と友情のドラマです!

 

まとめ

いかがでしたか?

インターネット上でも様々な記事で紹介されている夏目漱石。そんな彼を独自の切り口でご紹介しました。

皆さんのイメージしていた漱石とはまた少し違う漱石を知ってもらえたのではないかな、と思います。

これを機に、あなたもお気に入りの漱石作品を見つけてみてくださいね。

【後藤伸おすすめ!】日本近代文学の生みの親!?時代を切り拓いた文学者・二葉亭四迷をご紹介します!

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時代の変わり目に颯爽と現れた文学の救世主!?今回は、江戸から明治へと時代が移り、さまざまな物事が変わりつつあったそんな時代に登場し、今日に至るまでの日本の文学・小説の世界のスタートアップとなる土台を築き上げた文学者・二葉亭四迷をご紹介します。彼の存在なくして、日本の小説は語れません!!



二葉亭四迷って誰それ?美味しいの?】

皆さんは、二葉亭四迷という名前を今まで聞いたり、目にしたりしたことはありますか?おそらく初めて知った、という読者の方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

 

それもそのはず、二葉亭四迷は現代の日本ではほとんど忘れ去られた存在と言われても仕方がありません。目先の利益や快適さばかりを求めるあまり、温故知新を忘れた現代日本のなせる愚行ですね。

しかし、実は二葉亭四迷現代日本にとっても非常に重要な役割を果たしていた人物なのです。

 

まず、二葉亭四迷生きた明治時代・大正時代は、自由民権運動大正デモクラシーなど、それまでの武士や貴族が支配的だった日本社会から、いわゆる一般庶民たちの存在が大きくなり、少しずつ現代日本の姿に近づいていく時代でした。

 

また、産業や文化も、西洋文明を積極的に取り入れることで、大きく変わりはじめました。文明開花、大正ロマン、という言葉があるように、激動の時代だったわけですね。

 

それでは、そんな時代を駆け抜けた二葉亭四迷のプロフィールをご紹介します。

二葉亭四迷は、1864(元治元)年に生まれ、明治時代末期の1909(明治42)年に45歳の若さで亡くなった、文学史上に大きく名を刻む文学者です。

 

東京・市ヶ谷出身の彼は、急速に近代化する都市の中で育ち、やがて日本に近代文学の概念をもたらしたとして知られる『小説神髄』の坪内逍遥に師事します。そして文学者としての活動を広げていくことになります。

 

そして1886(明治19)年に『小説総論』、その翌年に言文一致体の『浮雲』を発表します。この時、まだ23歳の若さです。

そしてこの『浮雲』こそが、二葉亭四迷の代表作であり、かつ当時の文学状況にとって革新的な役割を果たすことになりました。

 

その後も東京外国語学校(現・東京外国語大学)教授になったり、大阪朝日新聞社に勤務したりするなど、キャリアを積み重ねていきます。また、新聞に小説を連載し、ロシアの文豪・ツルゲーネフの作品を日本語に翻訳するなど、多彩な活動を行っていくことに。

 

そんな二葉亭四迷ですが、堪能なロシア語を活かしてロシアに赴任することになるのですが、その帰国途中、ベンガル湾で死没してしまいました。

45歳という若さで亡くなってはしまいましたが、それでも彼が日本の近代文学に与えた影響は計り知れません。

 

それでは実際に、次章で彼が日本の近代文学に与えた影響と、当時の背景についてご紹介します。



二葉亭四迷が起こした革新的ムーブメント、言文一致運動ってなに?】

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この章では、前章でご紹介した二葉亭四迷の功績、歴史的にも文学的にも衝撃のムーブメント・言文一致運動についてご説明します。

 

言文一致運動とは、簡単に言うと、「書き言葉と話し言葉を一致させよう」という運動のことです。

当時は、口で話す時の言葉と、文章に書く言葉はまるで違うものでした。具体的には、書き言葉が「〜〜で候」のような漢文調だったのです。平安時代の貴族や武士たちが繰り広げる栄枯盛衰を描いた『平家物語』のような文体、といえばイメージしやすいかもしれませんね。そして明治時代にはすでに、そんな風に話す人はいなかったようです。

 

言文一致運動が広まった背景には、日本が西洋の文明を取り入れるなど、文明開花の時代となった明治・大正時代になって、教育が普及しはじめ、読み書きができる人々の階層が広がったことが挙げられます。

 

それまでは、読み書きというのは一部の限られた階層が身につけることがほとんどだったのですが、大正デモクラシーに代表されるような民主化・近代化のビッグウェーブの中で、一般庶民も教育を受ける機会が急増していったのです。

 

平安時代などの古典文学作品を見ても、『枕草子』の清少納言や、『源氏物語』の紫式部など、貴族やその家族、もしくはその貴族に仕える身分として宮中(天皇や皇后など、皇族がお住まいになる御所のこと)に出入りしている人物の作品ばかりが残っていますよね。もっとも、当時は書かれていて、現代まで残っていないというだけかも知れませんが()

 

さて、読み書きのできる人々が急増していった大正・明治時代。それ自体は喜ぶべきことなのかもしれませんが、ここで一つ、ちょっとした問題がありました。

この時代、まだ漢字の正しい使い方というものが国によって定められていませんでした。そのため、言葉に漢字の読みを当てはめて表記する、いわゆる当て字文化が盛んになったのです。

 

たとえば

氷菓子」を似た音の「高利貸し」と読み替え、アイスクリームに高利貸しという字を当てる、などと言った「シャレ」が流行しました。

音を漢字に当てて表記することもあった当時、文学界の言文一致運動のリーダー的存在だった二葉亭四迷。実は彼のこの名前も、ある言葉の当て字だと言われています。なんだか分かりますか?

二葉亭四迷、という筆名も、「くたばってしまえ」という言葉の音から取られたと言われています。ね、面白でしょう?

 

それでは、いよいよ次章で二葉亭四迷の代表作をご紹介します!

 

【新しい時代を切り拓いた、文学界のフロントランナー・二葉亭四迷!その作品と意義を考察します!】

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さて、時代の背景や言文一致について説明したところで、改めて二葉亭四迷の作品と、彼の活動の意義をご紹介したいと思います。

彼の代表作。それはなんといっても『浮雲』です!

日本の近代文学を切り開いた文学者とも言える二葉亭四迷ですが、その代表作「浮雲』は現代でも、文学を学ぶ人々にとっては重要な意味を持つ、バイブルのような存在なのです。

 

あらすじはとっても簡単です。

主人公・内海文三が、下宿先の従姉妹・お勢に英語を教わるうち、次第に好意を寄せていきます。しかし恋で頭がいっぱいになり、仕事をクビになるほどに。

そんな中、お勢の前に文三の元同僚・本田が現れます。要領がよく、エリートコースを歩んでいた本田は、お勢のもとへ通うようになり、徐々に親しさを増す二人。そんな二人の様子に、なすすべなく不安に駆られていく文三……

 

ざっくり言ってしまうと、「三角関係の恋愛もの」ですね。余談ですが、明治〜昭和初期にかけての名作というのは、ほとんどが「三角関係の恋愛」を描いたものだといえます。夏目漱石の『三四郎』『それから』『門』の三部作や武者小路実篤の『友情』などが男女の三角関係を描いた作品としては、特に有名ですね。もちろん、エロスの魔術師・谷崎潤一郎でいうと『卍』という異色の衝撃作もありますよ…!

 

当時、それだけ恋愛というのは人々の関心が高く、生きる上で非常に大切なものだったということが窺えますね。

そしてストーリーはもちろん、なんといっても注目すべきなのは……そうです。言文一致体で書かれた文章そのものです。当時、こうした話し言葉で文章が書かれることは非常に稀で、読者に大きな衝撃を与えました。

 

そして、その後、有名な文豪・夏目漱石森鴎外なども言文一致体の作品を数多く発表し、いつしか言文一致体で書かれる文章が日本のスタンダードになっていったのです……

 

もし二葉亭四迷が存在せず、言文一致運動が成功しなかったとしたら、今でも話し言葉と書き言葉には大きな違いがあるままでした。もしそうだったとすると、書き言葉を使いこなせる人は一部のエリート層だけですから、素人に毛が生えた程度の才能しかないライターが書いたような無数のブログや広告記事などは生まれることもなかったのです。

 

もちろん、とりとめのない個人の思いつきを発信するSNSも、文章を書けるのが限られた人々だけだったら、これほどまでに盛り上がることもなかったはずです。

そうです!我々の享受しているネット記事やSNSは、言文一致運動なくして存在しなかったのです!

そう考えてみると、皆さんにも二葉亭四迷の偉大さがご理解いただけるのではないでしょうか。



【まとめ】

いかがでしたか?

今回は歴史的なトピックを扱ったので、少し取っつきにくく感じた方もいたかもしれません。

しかし、知れば知るほど、二葉亭四迷の存在は現代日本にとっても非常に重要なものでしたね。

現代の文章とは少し雰囲気が違いますが、ぜひ一度チェックしてみてください。

【後藤伸おすすめ】変幻自在の小説家・長野まゆみワールドをご紹介!一度ハマれば虜になること間違いなし。

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今回は神秘的、そして官能的でさえある独自の世界観を構築し、現代小説のシーンを代表する小説家・長野まゆみをご紹介します。

作家として30年以上活躍するキャリアを持ち、長野ワールドとも称される独自の作風で不動の地位を築いた長野まゆみそのミステリアスな小説世界は、まるで万華鏡を覗き込んでいるような美しさ・不思議さ!あなたもきっと魅了されるはずです!



【変幻自在の作家・長野まゆみのプロフィールから推し作品まで、徹底解説!】

まずは、独創的な小説世界で熱狂的なファンを魅了する長野まゆみさんの略歴をご紹介します。

長野ワールドとも表現される独特の世界観や小説の特徴などは次章以降、詳しくご説明するとして、まずは基本的な部分をおさらいしていきましょう。

 

長野まゆみさんは1959年8月13日生まれ、東京都出身です。小学生の頃に漫画家・竹宮惠子さん『空がすき!』に衝撃を受け、『トーマの心臓』の萩尾望都さんにもどハマりしたそうです。

竹宮惠子さんも萩尾望都さんも、いわゆる「花の24年組」ですね。この「24年組」には『レベレーション(啓示)』で話題となった山岸凉子さんや映画化・ドラマ化された話題作『グーグーだって猫である』の大島弓子さんなど、そうそうたるメンバーが揃っていますね。

他にも作家・稲垣足穂に傾倒するなど、少年愛の世界にどっぷりのめり込んでいくことに。

 

今で言うところの、いわゆるボーイズラブ、BL文化ですね。今でこそ市民権を得たBL文化ですが、当時はまだまだマイナーだったようです。腐女子腐男子がこうしてBL文化を堪能できているのも、「花の24年組」や長野まゆみさんなど、多くの先人のおかげだと言えますね。ありがとうございます!

 

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実際、最上もがさんのようにBL好きを公言するタレントさんも増えてきていて、年々BLは世間に受け入れられつつありますね。ちなみに筆者の最推しBL漫画は、紀伊カンナさんの『海辺のエトランゼ』『春風のエトランゼ』シリーズです。

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ちなみにこちらの漫画は、2020年に劇場アニメ化されて評判を呼んだ人気作品でもあります。村田太志さんや松岡禎丞さんなど、人気声優さんがキャストを務めていますので、あわせてチェックしてみてください。期間未定ですが、本編冒頭の映像も無料でご覧いただけますよ。

m.youtube.com

 

さて、そうして少年愛、いわゆるBLに目覚めた少女時代を送った長野まゆみ氏ですが、大学は女子美術大学に進学します。芸術学部でデザインを学んだ経験を活かし、作家になってからはご自身の作品の表紙をデザインするなど、多彩な活躍を見せます。

 

そして大学卒業後は、デパート勤務やデザイナーなどを経て、1988年、『少年アリス』で第25回文藝賞を受賞し、小説家としてデビューを果たします。また、デビュー作『少年アリス』は第2回三島由紀夫賞の候補になるなど、デビューして早速注目されていたことがわかりますね。

 

ちなみにこの年の三島由紀夫賞の受賞作は大岡玲『黄昏のストーム・シーディング』ですが、候補作には長野まゆみの他に、近年ヒップホップ文化に脚光を当てているタレントとしても注目されている、いとうせいこうノーライフキング』や、佐藤泰志『そこにのみにて光り輝く』などが挙げられていました。佐藤泰志は1990年に41歳の若さでこの世を去った後、2000年代に入ってから再評価され、同作の他にも『海炭市叙景』や『オーバー・フェンス』など、数多くの作品が映画化されるなど、最注目されている作家です。素朴な文体に宿る力強いリズムや、登場人物たちの人生に宿る悲哀が、ひしひしと迫ってくる世界観が特徴です。

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あまり世間には知られていませんが、こちらも筆者イチオシの作家ですので、映画とともにぜひチェックしてみてください。

オダギリジョーさんや蒼井優さん、松田翔太さんなど実力派俳優が多数出演しています。

www.kaitanshi.com

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デビュー当初から大きく注目されることとなった長野まゆみ氏ですが、その後もめきめきと活躍を続けます。

また、自身の作品から名を取った有限会社・耳猫風信社を立ち上げ、鉱石(長野さんは鉱石好きとしても知られています)や耳猫風信社オリジナル品の販売なども行っています。現在は、耳猫風信社ウェブサイトでの通信販売のみ、行っているようです。その他にも、自身のデザイナーとしての能力も発揮して、画廊を貸切ってイベントを行うなど、精力的な活動でも知られています。

 

小説執筆のほかにもマルチな才能を発揮する長野まゆみさんですが、次章では、そんな彼女の小説の特徴をご紹介します。



【幻想的な世界とBL的要素を融合させた美と官能の長野ワールド!】

 

数多くの作品を発表し、これまで様々な評判を獲得してきた長野まゆみ氏ですが、ひときわ大きな評判を呼んだのが、2015年の『冥土あり』での第43回泉鏡花文学賞と第68回野間文芸賞のダブル受賞です。

その幻想的・神秘的な、不思議な長野ワールドを展開している作風は、同じく幻想的な世界観を描くことで知られる稲垣足穂泉鏡花にも比較されるほど、完成度の高いものとして評判が高いのです。

 

作中にはどこかノスタルジックな街の風景や、様々な調度品が登場します。日本古来の骨董品や、ビロードの絨毯など、現代では小説でもなかなかお目にかかれない言葉が贅沢に使われていることも、作品世界の世界観に重要な役割を果たしています。

 

例えば、ライターを「発火石」、ノートを「筆記帳」と表記するなど、ノスタルジックでどこか現実離れしたムードを言葉選びのレベルで表現しているのです。

 

デビュー作『少年アリス』も、少年が不思議な夢の世界に迷い込むストーリーが、読者をも現実離れした世界に誘うと、高い評価を受けています。

また、御伽噺のようなストーリーだけではなく、その文体、表現力にも注目です。

初めての読者は、上記のような独特の漢字表現や旧字体に面食らうかもしれません。しかし、読み進めていくうちに、そうした独特の言葉のチョイスとリズムの良い文章にいつしか引き込まれていることでしょう。ストーリーだけでなく、文章そのものまでもが不思議な魅力に満ちているのです。

 

長野まゆみさんの作品には、そうした神秘的・幻想的、そしてノスタルジックな世界観という特徴の他に、もう一つ大きな特徴があります。ここまでお読みいただいた読者の方はもうお気付きですね?

そうです、もう一つの大きな特徴。それは少年愛、つまりBL的要素です!

デビュー作『少年アリス』から一貫したテーマとして、長野まゆみさんの作品には、容姿端麗な線の細い美少年(注:筆者の妄想も混じっています)と年上の男との交流が描かれています。

美少年が恋心を持つこともしばしば。

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例えば、連作短編集『レモンタルト』では、少年ではないものの、主人公の青年と、今は亡き自身の姉の旦那である義兄が、遺された一軒家に二人で暮らす日々の物語です。

この作品は、淡々としていながらどこかぬくもりのある文体で、主人公が義兄に抱く恋愛感情が描かれています。また、主人公のもとに持ち込まれるミステリアスな面倒ごとを解決していくストーリーにもなっているので、「ほのぼの日常ミステリ」としても読める、不思議な空気感がクセになる一作ですよ。

 

ちなみに、いわゆるBL、ボーイズラブの雰囲気漂う作品を発表している作家さんといえば、ほかに三浦しをんさんの名前が思い浮かびますね。

舟を編む』など、映画化された作品もある三浦しをん氏の作品ですが、筆者の個人的なオススメは『月魚』です。なぜかと言いますと、それはですね……読者の皆さんのご想像にお任せします(笑)

というのは冗談としても、読んでいただければきっと筆者オススメの理由がわかってもらえるはずです……(笑)

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【これぞ長野まゆみワールドの真骨頂!?魅惑の美と官能の世界をご紹介!】

さて今回は、ここまで筆者の独断と偏見、時々性癖を織り交ぜて解説してきましたが、ここで読者のみなさんに読んでいただきたい長野まゆみ氏の極上小説をご紹介したいと思います。

生半可なBL漫画よりもはるかに興奮……じゃない、心に染み入る魅力の一作ですよ。

 

『雨更紗』

主人公はとある地方の旧家に出入りする高校生の美少年。周囲の人間に、自分と瓜二つだと言われる従兄弟を訪ねて旧家に出入りするのですが、なかなか会えない二人……。

美しい文章を読み進めていくうちに、様々なピースが浮かび上がってきて、少しずつ全体像が見えるようになっていく、そんな不思議な物語です。

女性のファンが非常に多いことでも知られる長野まゆみ氏ですが、実は筆者もこの作品をとある小説好きの女性からオススメされたのがきっかけで読みました。感想としては、女性はもちろん男性でもとってもハマれる小説でした。小説好きならまさに垂涎間違いなしの名作ですので、この文章を読むのなんて止めて、今すぐチェックしてほしいくらいです!(笑)

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実際、発表当時には沼野充義氏をはじめ、川村湊氏や大庭みな子氏など、名だたる作家たちが書評を寄せるほど、大きな話題を呼んだ作品となりました。河出書房新社から刊行された単行本の帯には、そうした書評を指して、「各紙誌絶賛の異色作!」との文言があることからも、いかに注目されていたかがわかりますね。

 

【まとめ】

いかがでしたか?

神秘的な独自の小説世界を構築するとともに、近年話題沸騰のBL的な要素も色濃く表現している長野ワールドについて、筆者の情熱そのままにお届けしました。読者の皆さんが、これをきっかけに長野まゆみさんのファンになってくだされば幸いです。もちろん、BLに目覚めてくださっても……(笑)

【後藤伸おすすめ】刹那の言葉を生きた、魂の詩人・中原中也!あなたもきっと彼の詩が好きになる!?

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「芸術を遊びごとだと思つてるその心こそあはれなりけれ」

 

(『中原中也詩集』岩波文庫)

 

その言葉通り、身も心も文学・詩に捧げた魂の詩人・中原中也

『文スト』や『文アル』でその名を知る方も多くなった中也について、皆さんはどんなイメージをお持ちですか?

今回は、日本文学史に燦然と名を刻みながら、近年のメデイアミックスブームで人気沸騰の詩人・中原中也についてご紹介します。



中原中也、詩人としての目覚め

1907年(明治40年)、山口県に医師の長男として誕生した中原中也は、すくすくと育ち、やがて周囲からは「神童」だと評判になります。

しかし、そんな中原中也が8歳のとき、弟の亜郎の死をきっかけに、文学に目覚めます。

 

その後、詩や短歌にのめり込んでいく中也は中学校に入学しますが、詩歌のために勉強をおろそかにし、成績はみるみる悪化。住み込みの家庭教師がついた中也ですが、成績は悪化を続けます。詩歌に没頭する中也は、勉強はろくにしない代わりになんと15歳で飲酒を覚えたそうです。そんな暮らしぶりですから、中学校を落第してしまいます。

 

普通なら、いい加減反省しても、勉強に集中してもよさそうなものですが、中也は違います。医者になってほしいという父親に反発し、、、

1923年(大正12年)、なんと京都に単身飛び出してしまうのです。

そして、これを機に、中也の詩人としての生活は一気に加速します。

次章では、中也の詩人としての日々について、ご紹介します。



運命の出会い!? 女優・長谷川泰子と作家・小林秀雄

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京都に移り住み、より詩作に没頭する中原中也ですが、友人の紹介で、女優の卵・長谷川泰子と出会います。

そう、これこそが運命の出会いでした。中也の詩に泰子は共感し、二人は急速に距離を縮め、ほどなく同棲を始めます。当時中也17歳、泰子20歳の、若い二人の同棲生活です。

 

今だったら、ほとんど考えられない、フィクションのようなお話ですね。こんなことができるのも、大正時代という古き良き時代の懐の広さのいかげなのかもしれませんね。

ともかく、こうして中原中也は詩人としての人生を歩み始めます。まるで文学の神様が中也の詩人としての人生を後押ししているかのように、運命の出会いは重なります。

 

泰子との同棲の翌年、今度は二人で上京し、現在の新宿のあたりで下宿暮らしをスタート。そして、後の超有名作家・小林秀雄と、二人は出会います。中也と小林秀雄は互いに才能を評価し合い、交流を深めます。

小林秀雄という文学の仲間を得た中也は、恋人・泰子と円満な暮らしを続け、幸せな日々を送ることに、、、、はなりませんでした。

 

なんと、それからたったの半年ほどで、泰子は中也のもとを去り、小林秀雄のもとへ行ってしまうのです。

しかし、その後も中也は文学の友として小林秀雄と交流を続けます。

むちゃくちゃというかなんというか、、、やはり詩人は一味も二味も違う感覚の持ち主なのでしょうか?

ちなみに、中原中也長谷川泰子小林秀雄の人間模様については、さまざまな書籍から知ることができますが、中でも筆者がオススメしたいのは、漫画家・月子さんの『最果てにサーカス』(全3巻)です。

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https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B018X8MLRA/ref=tmm_kin_swatch_0?ie=UTF8&qid=&sr=

3人の三角関係を、小林秀雄の視点から描いた恋愛青春漫画です。

漫画なのでわかりやすく、絵も綺麗なのでその世界観に引き込まれること間違いなしです!

現代だったらクラフトビールなんかを飲んでオシャレに街歩きをしていたかもしれない3人の姿が、美しく浮かんでくるので、たまりません!

 

漫画繋がりでもう一つ。こちらの吉田基已さんの『夏の前日』(全5巻)の中でも中也の詩が引用されています。

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ちなみにこの漫画『夏の前日』は、京都の街を舞台に、画家を目指す芸大生・青木哲夫と、彼よりも年上の画廊店長・藍沢晶が織りなす恋愛模様が中心に描かれた青春ストーリーです。

その詩がこちら



冬の夜

 

みなさん今夜は静かです

薬鑵(やかん)の音がしています

僕は女を想(おも)ってる

僕には女がないのです

 

それで苦労もないのです

えもいわれない弾力の

空気のような空想に

女を描(えが)いてみているのです

 

えもいわれない弾力の

澄み亙(わた)ったる夜(よ)の沈黙(しじま)

薬鑵の音を聞きながら

女を夢みているのです

 

かくて夜(よ)は更(ふ)け夜は深まって

犬のみ覚めたる冬の夜は

影と煙草と僕と犬

えもいわれないカクテールです

 

 

いかがでしょうか?

独特の静かな雰囲気の中に、少しの胸のときめきと、少し複雑な感情の揺れ動きが伝わってきませんか?

この詩は、二人が初めて肌を重ねた翌日、晴れた空を見上げながら芸大生・青木哲夫が口ずさむのですが、これがまたなんともカッコイイシーンなのです!中原中也の詩だけでなく、ぜひこちらの漫画もチェックしてみてください!

 

中原中也の国民的評判作をご紹介!

さて、おまたせいたしました。それではいよいよ、夭折の詩人・中原中也の作品から、評判作をご紹介します。

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一つのメルヘン

 

秋の夜(よ)は、はるかの彼方(かなた)に、

小石ばかりの、河原があって、

それに陽は、さらさらと

さらさらと射しているのでありました。

 

陽といっても、まるで硅石(けいせき)か何かのようで、

非常な個体の粉末のようで、

さればこそ、さらさらと

かすかな音を立ててもいるのでした。

 

さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、

淡い、それでいてくっきりとした

影を落としているのでした。

 

やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、

今迄(いままで)流れてもいなかった川床に、水は

さらさらと、さらさらと流れているのでありました……

 

 

この作品、国語の教科書にも掲載されるほど有名な作品なので、「自分も高校の授業で習った!」という方もいると思います。

なんとなく悲しい気分は伝わってくるものの、いったいなぜ悲しいのかははっきりと示されていませんね。それこそが中也の詩の最大の魅力の一つなのです。理由や原因がはっきりと示されていないからこそ、私たち読者が、それぞれ自分の感情をそこに当てはめて味わうことができるのです。

 

現代詩人の穂村弘さんも、中原中也について、

「詩人という存在ののイメージの原型のような人だ」と表現しています。

小柄で目が綺麗で、早熟の天才、生き急ぐように夭折してしまった中也、、、、

なるほど、たしかに中原中也の写真を見ると、いかにもな感じの美青年で、もし現代に活躍していたらきっとファンからの黄色い歓声が止まなかったでしょうね。

 

それでは最後に、筆者が最も気に入っている詩をご紹介します。

 

渓流

 

渓流(たにがは)で冷やされたビールは、

青春のやうに悲しかつた。

峰を仰いで僕は、

泣き入るやうに飲んだ。

ビシヨビシヨに濡れて、とれさうになつてゐるレッテルも、

青春のやうに悲しかつた。

しかしみんなは、「実にいい」とばかり云つた。

僕も実は、さう云つたのだが。

湿つた苔も泡立つ水も、

日蔭も岩も悲しかつた。

やがてみんなは飲む手をやめた。

ビールはまだ、渓流(たにがは)の中で冷やされてゐた。

水を透かして瓶の肌へをみてゐると、

僕はもう、此の上歩きたいなぞとは思はなかつた。

独り失敬して、宿に行つて、

女中(ねえさん)と話をした。

 



こちらなんと、死のわずか3ヶ月前に作られたとされる詩なのです。

幼年時代から死ぬ寸前まで、いやぞの死後も、中也の魂は純粋な詩への炎を燃やしていたことがわかりますね。



まとめ

さて、いかがでしたか?

独特で繊細な孤独と哀しみを表現し、詩に人生を捧げた魂の芸術家、詩人の中原中也をご紹介しました。

詩とは何かを全身で考え続け、燃える炎のように激しく駆け抜けた中原中也の人生について、少しでも知っていただけたなら幸いです。

【後藤伸おすすめ】【評判良】二十世紀が認めた!最後の近代文学者!?時代が産んだ最高傑作、中上健次の世界に陶酔すること間違いなし!?

 

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誰かが言ったーーー「読む前と読んだ後とでは自分の存在が、その認識がまるっきり変わってしまうようなもの。それを文学と呼ぶ。ただ自分を安心させてくれるだけの物語は、ただの生ぬるい子供の読み物に過ぎない」

今回は、読む者の魂を掴んで揺さぶり、圧倒せずにはおけない作品を数多く発表しながらも、46歳の若さで夭折した燃える炎のような作家・中上健次についてご紹介します。

 

中上健次、それって誰?】

今これを読んでくださっている方の多くは、もしかしたら中上健次という名前を今まで聞かずに生きてきたかも知れません。それもそのはず、かつては時代の寵児だった中上健次ですが、今では当時ほどの輝きを失いつつある作家の1人なのです。

しかし、世間ではあまり知られてないというだけで、実際のところは、文豪・谷崎潤一郎の文学性を色濃く継承し、『推し、燃ゆ』で芥川賞を受賞した現代の人気女子大生作家・宇佐美りんの「推し」としても知られる、正真正銘の文学者なのです。そんなわけで、本日は、中上健次をご紹介します。

まずはそんな中上健次のプロフィールからスタートです。

 

中上健次、その生い立ちと青春時代】

中上健次は1946年和歌山県の新宮で生まれます。

複雑な血縁関係の中で成長した中上健次は、地元の高校を卒業後、上京。大学に入るための予備校に通う、と嘘をつき仕送りをもらい続け、ジャズやドラッグ、酒やタバコに彩られた青春時代が幕を開けます。

 

ちなみに中上健次は高校時代、フランスの作家、マルキ・ド・サドジャン・ジュネなどを愛読していたそうです。中上健次、どうやら相当に頭がキレる、早熟なおませさんだったようですね。その後もランボーアンドレ・ジッドなど、フランス文学にも精通していきました。

 

その後、羽田空港フォークリフトでの貨物積み降ろしなどの肉体労働に従事しながらも、執筆活動を続けていきます。

 

そして、1976年、30歳のころ、中編小説『岬』で第74回芥川龍之介賞を受賞します!

初の戦後生まれの受賞者としても、注目を集めます。

短編集『岬』の単行本の帯にはこんな惹句が記されていました。

芥川賞受賞作 血の宿命のなかに閉じ込められた若者の、癒せぬ渇望と愛憎。注目の新人の絶唱ともいうべき文学空間!」

 

 

思わず鳥肌が立つほどかっこいいコピーですね。インターネットの普及によって、一億総コメンテーター時代とも揶揄され、誰もが作家になろうとしている現代日本ですが、こんな言葉がふさわしい作家はもう現れないかもしれません。

 

また、中上健次は「岬」発表後、より積極的に自身の故郷や経験を題材として活かし、中上健次の作家人生を代表する3部作、『岬』『枯木灘』『地の果て 至上の時』を完成させます。

 

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中上健次、その素顔に迫るエピソードをご紹介】

作家として着実なスターダムを駆け上っていく、そんな中上健次ですが、私生活はどんな様子だったのでしょうか?

というわけで、この章では、中上健次の魅力を象徴するような、様々なエピソードをご紹介します。

 

高校卒業後、上京して新宿を拠点に青春時代を送った中上健次は、歌舞伎町やゴールデン街、ジャズバーに入り浸って、酒・ドラッグ・ジャズにまみれた日々を送りました。

夜な夜な飲み歩く中上は、深夜3時に知り合いに電話をかけて叩き起こしては飲みに誘う、そんなことを平然とやらかしてしまう、そんなタフな一面も持ち合わせていました。

 

もし身近にそんな人がいたら面白そうですけど、やっぱりちょっと迷惑ですよね。

酒浸りの中上は、親しくしていた編集者と飲んでいた時、酔っ払ってビール瓶で殴って十数針も縫うケガをさせてしまったこともあります。

 

そんな事件、今なら炎上ものですよね。そう考えると、まるで時代までもが中上健次に味方していたわけですね。

こんなエピソードばかりだと、「中上健次って、乱暴者のヤバい奴!?」と思われてしまいそうですが、そんなことはありません。彼はたしかに豪快な一方、人間への優しく温かい一面も持ち合わせていました。

 

たとえば、全共闘世代をテーマとしたこちらのシンポジウムでの中上健次の(貴重な!)言動を見ると、彼がいかにも人間味の豊かな人物であることがわかります。

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他にも多くの人々によって、彼の人間らしい姿は語られているのです。

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そう、中上健次は現代人が忘れてしまった大切な何かを思い出させてくれる、重要な文学者なのかもしれません。

 

実際に中上健次と交流のあった作家仲間や文壇関係者は、彼を「矛盾する二つの性質を持つ作家」だと言います。豪快さと繊細さ、マッチョさとナイーブさ。あるいは生まれ育った土地・紀伊半島の南端に位置する海と山に囲まれた新宮をこよなく愛しながらも、東京は新宿に骨の髄まで浸かる青春時代を送ったり、後には日本に留まらず世界中を訪れたり、真の意味でグローバルな作家として活動を続けました。

 

真逆のもの、という意味では、ジャズ好きで知られた中上健次ですが、彼は同時に演歌も大好きだったのです。ちなみに、中上健次の「推し」は、都はるみさんでした。興味がある方は、ぜひ聴いてみてくださいね。

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【合法的にトべる、極上の陶酔? 中上健次ワールドをご紹介】

読む者を惹きつけてやまない、力強くユニークな文体と、その文体に勝るとも劣らない艶かしい物語内容で一躍有名になった中上健次

 

彼は自身の生い立ちなどの実体験をベースにした小説を数多く執筆したことで知られていますが、芥川賞受賞作の『岬』や、同作を含めた3部作『枯木灘』『地の果て 至上の時』の他にも名作が盛りだくさん。今回はその中から、異色の短編集『重力の都』を紹介したいと思います。

 

複数の文芸誌に、7年間にわたって掲載された6編の短編を収録した『重力の都』。その中で最も早い時期に発表された表題作「重力の都」の冒頭をご紹介します。

 

朝早く女が戸口に立ったまま日の光をあびて振り返って、空を駆けて来た神が畑の中ほどにある欅の木に降り立ったと言った。朝の寒気と隈取り濃く眩しい日の光のせいで女の張りつめた頬や眼元はこころもち紅く、由明が審かしげに見ているのを察したように笑を浮かべ、手足が痛んだから眠れず起きていたのだと言った。女は由明が黙ったままみつめるのに眼を伏せて戸口から身を離し、土間に立っていたので体の芯から冷え込んでしまったと由明のかたわらにもぐり込み、冷えた衣服の体を圧しつけてほら、と手を宙にかざしてみせた。どこに傷があるわけでもないが、筋がひきつれるような痛みが寝入りかかると起こり出して明け方まで続いたと女は由明に手を触わらせた。

 

www.kinokuniya.co.jp

いかがですか?長いですが、これが改行もなし、たった一段落に凝縮されているのです。

 

独特の息の長い文体は、くらくらとめまいがするほどの力強さがありますね。それに、ジャズのリズムが骨まで浸み込んだ中上健次ならではの、どこか心地よいリズムも感じられます。

 

現在活躍している作家では、金井美恵子さんや、独特のユーモアが光る記者会見で話題を呼んだ蓮實重彦さんの文体も、中上の艶かしい文体に似ているものがあります。

 

ちなみに、この短編集の「あとがき」には、収められた作品が文豪・谷崎潤一郎への強烈なオマージュであると語られています。実際、谷崎潤一郎の小説にも、文体の美しさを極めんとした作品がいくつもありました。中上はそうした谷崎の文学性へのリスペクトとして、これらを執筆したのかもしれませんね。



〈まとめ〉

いかがでしたか?

時代を駆け抜け、時代を築き上げた中上健次ですが、最期は46歳の若さで腎臓癌によって、この世を去ります。しかしその後も現在に至るまで読み継がれ、もはや日本文学史上になくてはならない存在となりました。

中上健次亡き後、いまだ彼を超える作家は現れていないでしょう。

多くの人に「最後の近代文学者」として名残惜しまれる中上健次の作品を、ぜひ読んでみてくださいね。

 

【後藤伸おすすめ】ジャンル不問!なんでもアリの伊坂ワールド、領域展開!? 21世紀を代表するエンターテイメント作家・伊坂幸太郎!きっとあなたの大好きな一冊に出会えるはず!?

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21世紀の幕開けとともにミステリー作家としてデビューした、伊坂幸太郎。書店やインターネットで彼の名を見たことがある!という方も多いのではないでしょうか?

今回は、数多くの作品が映画化、漫画化されるだけではなく、ミュージシャンの斉藤和義をはじめ、アーティストとの親交も深い、そんな現在の日本の小説シーンを代表する、伊坂幸太郎さんをご紹介します。




伊坂幸太郎とは?華々しい実績とともにご紹介】

伊坂幸太郎さんは、1971年生まれ、千葉県松戸市出身。東北大学法学部に入学して以来、長年宮城県仙台市に在住の小説家です。映画化や漫画化された作品も数多く、書店に行けば伊坂幸太郎が必ず目に入ること間違いなしと言っても過言ではないほどの、人気作家さんです。

まずはそんな伊坂さんの受賞歴をご紹介します。

 

1996年 第13回サントリーミステリー大賞佳作(『悪党たちが目にしみる』、大幅に改訂されて『陽気なギャングが地球を回す』として祥伝社から出版)

 

2000年 第5回新潮ミステリー倶楽部賞(『オーデュボンの祈り』)

 

2004年 第25回吉川英治文学新人賞(『アヒルと鴨のコインロッカー』)

 

2004年 第57回日本推理作家協会賞 短編部門(『死神の精度』)

 

2006年 平成17年度宮城県芸術選奨 文芸(小説)部門

 

2008年 第21回山本周五郎賞、第5回本屋大賞(『ゴールデンスランバー』)

 

2020年 第33回柴田錬三郎賞(『逆ソクラテス』)

 

伊坂幸太郎公式サイトhttps://isakakotaro.ctbctb.com/profile/?より引用)



いかがでしょうか?最も知名度の高い芥川賞直木賞こそ受賞してはいませんが、数多くの賞を獲得していますね。

映画や漫画、舞台など、メディアミックス作品も多い、正真正銘の人気作家であることがわかりますね。小説家として優れた地位にいる伊坂幸太郎ですが、いったいどんな私生活を送ってきたのでしょうか。

次章では、伊坂幸太郎さんにまつわる雑学をご紹介します。

 

伊坂幸太郎の素顔!?地元・仙台への愛着 伊坂幸太郎、知る人ぞ知るトリビアをご紹介】

メディアへの露出が少ないことでも知られる伊坂幸太郎さんですが、エッセイやインタビューでは意外と私生活について語っていることもあります。いくつかのエッセイなどによると、どうやら伊坂さんは、仙台市内のカフェをはしごして小説を執筆しているそうです。ファンにとっては遭遇のチャンスですから、耳寄り情報ですね。

 

また、文豪や売れている作家さんにイメージされがちな酒やタバコについてですが、意外にも伊坂幸太郎さんはタバコは吸わず、お酒もそれほど飲まないんだそうです。健康ブームが注目されがちな現在の日本のスタイルにあった小説家だということも、人気の秘密なのかもしれませんね。

 

また、東日本大震災のあとには、地元・仙台へ自分も何かできることはないかということで、『アヒルと鴨のコインロッカー』、『ゴールデンスランバー』でもチームを組んだ映画監督・中村義洋によって、『ポテチ』が仙台ロケで制作されました。

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https://www.amazon.co.jp/%E3%83%9D%E3%83%86%E3%83%81-DVD-%E6%BF%B1%E7%94%B0%E5%B2%B3/dp/B008OFXER4

もちろん、主題歌も親交の深いシンガーソングライター・斉藤和義が担当しました。

さて、いよいよ次章で作品についてご紹介します。



【全ての世代に愛されるエンタメ作家・伊坂幸太郎の隠れた名作小説をご紹介】

今をときめく俳優、堺雅人さんをはじめ、多くの有名俳優が出演したこともあって、大人気作になった『ゴールデンスランバー』や多部未華子さんと故・三浦春馬さんが主演を務めた『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』など、映像化、漫画化など、メディアミックスされた作品の多い伊坂幸太郎さんですが、そんな彼の隠れた名作をご紹介します。

まずはデビュー作、『オーデュボンの祈り』です。

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それでは早速あらすじの紹介です。

 

コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気づくと見知らぬ島にいた。

その島の名前は「萩島」。

江戸以来外界から遮断されている荻島には、妙な人間ばかりが住んでいた。

嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。

だが、次の日カカシはバラバラにされ殺される。

未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止できなかったのか?

 

(単行本2000年新潮社、文庫2003年新潮社)

 

(伊坂幸太郎公式サイト

isakakotaro.ctbctb.com

より引用)

 

今でこそ超人気作家の伊坂幸太郎さんですが、実はデビュー当時は今ほどの人気はありませんでした。実際、デビュー作『オーデュボンの祈り』の単行本は絶版になってしまいました。しかしその後、『ラッシュライフ』などで注目を集めたことをきっかけに、『オーデュボンの祈り』は大幅に加筆・修正が施され、文庫化されました。絶版になった単行本と、現在流通している文庫本とは文章が違っている、ということになりますね。気になる方は、国立国会図書館で単行本を閲覧できるので、チェックしてみてください。

クライマックスにどんでん返しがいくつも待ち受けているのですが、ネタバレになってしまうので詳しく語れないのが残念ですが、ジャズ好きでもある伊坂幸太郎らしさが全開の、すかっと爽快な読後感を味わえること間違いなしです!

 

次に紹介するのは、切なくて優しい、SFテイストの連作短編集、『終末のフール』です。

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忘れられがちな大切なことを教えてくれる人間讃歌の物語、『終末のフール』のあらすじを早速紹介します。

 

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。

自分の言動が原因で息子が自殺したと思い込む父親(「終末のフール」)

長らく子宝に恵まれなかった夫婦に子供ができ、3年の命と知りながら産むべきか悩む夫(「太陽のシール」)

妹を死に追いやった男を殺しに行く兄弟(「籠城のビール」)

世紀末となっても黙々と練習を続けるボクサー(「鋼鉄のウール」)

落ちてくる小惑星を望遠鏡で間近に見られると興奮する天体オタク(「天体のヨール」)

来るべき大洪水に備えて櫓を作る老大工(「深海のポール」)などで構成される短編連作集。

はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。

 

(

isakakotaro.ctbctb.com

より引用)

 

どの短編も、本当は不安で不安でたまらないはずの主人公たちが、それでも1日1日を懸命に、丁寧に生きようとしている姿が描かれていて、そのひたむきさとユーモアに、筆者は何度も涙ぐんでしまいました。

どんな状況に置かれても、人はささやかな楽しみや喜びを見出せる。どんなにつらくても、生きてればきっと前を向いて進める。そんな勇気とエールをもらえる小説です。しんどいとき、辛いとき、悩みがあるとき、『終末のフール』を読んでみてください。きっと前を向くヒントが見つかるはずです!



【まとめ】

さて、いかがだったでしょうか?

超人気作家・伊坂幸太郎の小説の隠れた魅力が少しでも伝わったでしょうか?

今回紹介した作品のほかにも、すばらしい作品を数多く発表している作家さんです。

普段、小説を読む人も読まない人も、どんな年齢の方でも楽しんでいただける極上のストーリテラー、伊坂幸太郎。きっとあなたもお気に入りの一冊に巡り会えるはず!?

【谷崎潤一郎】80年間の人生の中で、女性の美をとことん追い求めた文豪・谷崎潤一郎!きっとあなたも彼の作品のとりこになるはず!?

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明治・大正・昭和にわたって半世紀以上も活躍した、日本が世界に誇る文豪・谷崎潤一郎。彼の名前を聞いたことがあるという人も多いのではないでしょうか?

今回の記事では、彼の生い立ちから死まで、人柄や意外な一面など、一気にご紹介します。

 

 ・谷崎潤一郎とは

日本のど真ん中で生まれたエリート・谷崎潤一郎のプロフィール

悪魔的?牧歌的?さまざまな女性の美を描いた谷崎潤一郎の傑作小説をご紹介

まとめ

 

 

谷崎潤一郎とは】

戦後の日本を代表する作家・三島由紀夫や、昨年芥川賞を受賞したばかりのアイドル小説『推し、燃ゆ』の現役女子大生・宇佐美りん氏の「推し」である中上健次など、多くの作家に影響を与えました。まさに日本の文学を代表する文豪なのです。

川端康成大江健三郎、ロックシンガーのボブディランなどが受賞したことでも有名なノーベル文学賞にも何度もノミネートされるなど、正真正銘、日本が誇る文豪といえますね。

また、日本の伝統を大切にし、食にもこだわっていたという谷崎潤一郎には、グルメだという意外な一面もありました。

彼は甘いものが好きで、小説やエッセイの中でも、果物や羊羹について何度も書いています。

中でも小説『吉野葛』の中には、柿についてはなみなみならぬ記述も見られます。

 

「八百屋の店先に並べてある柿が殊に綺麗であった。キザ柿、御所柿、美濃柿、いろいろな形の柿の粒が、一つ一つ戸外の明かりをそのつやつやと熟し切った珊瑚色の表面に受け止めて、瞳のように光っている。」

 

(―新潮社『吉野葛

www.shinchosha.co.jp

より)

 

いかがでしょう、柿への愛情が感じられるような表現ですね。

もし彼が現代に生きていたら、きっとタピオカはもちろん、人気急上昇中のイタリア発祥のお菓子、マリトッツォなんかもきっと大好きになっていたはず。

そんな意外な一面を持つ谷崎潤一郎は、小説だけではなく、戯曲、エッセイや講演、さらには日本の古典文学の最高傑作とも言われる『源氏物語』の翻訳など、様々なフィールドで活躍しました。

作家として非常に優れていた谷崎ですが、私生活はどのようなものだったのでしょうか?

次章では、世界に誇る文豪・谷崎潤一郎の生涯をざっくりとご紹介します。

 

【日本のど真ん中で生まれたエリート・谷崎潤一郎のプロフィール】

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谷崎潤一郎1886年明治19年)7月24日、現在の東京都中央区日本橋人形町一丁目に生まれました。

学生時代の谷崎は学業優秀でした。飛び級扱いで現在の東京大学の前身である旧制一高に進学、卒業後は東京帝国大学に。いわゆるエリートですね。ちなみに4歳下の弟・精二も作家・英米文学者として早稲田大学の教授を務めるほど人物となっています。

学生時代から小説を発表しはじめ、順調に作家として人生を歩んでいく谷崎でしたが、30代から40代にかけては当時の妻だった千代子をめぐって、作家仲間の佐藤春夫と泥沼な三角関係に陥り、結局は佐藤に妻を奪われてしまいます。その後、何度も引っ越しや再婚を繰り返すなど、常識では考えにくい、豪華な文豪らしい生活を送ることになります。

引っ越しはもちろん、恋愛だって意外とお金がかかるものですよね。作家としての地位を着実に築いていた谷崎、やはり相当なお金があったのでしょうか。羨ましい限りですね?

また、晩年には日本人で初めて全米芸術院アメリカ芸術文学アカデミー名誉会員に選ばれるなど、名実ともに日本を代表する作家の地位に上りつめます。

そして1965年(昭和40年)7月30日、臓器不全のためこの世を去りました。享年80歳でした。

彼の死後50年以上が経った今でも、本屋さんには彼の書いた小説が数多く並んでいることからも、いかに優れた作家だったかがわかりますね。

次章では、そんな谷崎潤一郎が残した数多くの作品の中から、代表的な作品をいくつかご紹介したいと思います。特に、女性関係の揉め事に悩まされた谷崎潤一郎の描く小説の、女性の美しさは必見です!

 

悪魔的?牧歌的?さまざまな女性の美を描いた谷崎潤一郎の傑作小説をご紹介】

女性の美しさを表現することを徹底的に追究した谷崎潤一郎は、古典的な題材の作品から時代を切り取った斬新な作品まで、次々と世に送り出しました。

そんな彼の作品から、厳選して2作をご紹介します。

1作目は痴人の愛です。

www.shinchosha.co.jp


この小説は、1924年大正13年)3月から6月まで『大阪朝日新聞』に連載され、一度中断し、数ヶ月後に再び雑誌『女性』11月号から翌1925年(大正13年)7月号まで掲載された、連載小説です。以下にあらすじを引用します。

「彼女に踏みにじられたい、そんな欲望が君の心の奥底にもひそんでいるはずだ!」

きまじめなサラリーマンの河合譲治は、カフェでみそめて育てあげた美少女ナオミを妻にした。河合が独占していたナオミの周辺に、いつしか不良学生たちが群がる。成熟するにつれて妖艶さを増すナオミの肉体に河合は悩まされ、ついには愛欲地獄の底へと落ちていく。性の倫理も恥じらいもない大胆な小悪魔が、生きるために身につけた超ショッキングなエロチシズムの世界。

 

(―新潮社“

https://www.shinchosha.co.jp/book/100501

”より引用)

 

まさに現代の、いや大正時代の光源氏。いや、今だったら「不謹慎だ!」とSNSで叩かれそうな、変態的な関係ですね。

それにしても、こんなにエロティックでハレンチな怪しい男女の関係を描いた小説が連載されていたなんて、当時の新聞はなかなかに過激だったのですね。不倫などの恋愛ゴシップの尽きない芸能界のタレントさんたちにも、ひょっとしたらこんな関係があったりするのかもしれない、なんて妄想してしまうと、なんだかドキドキしませんか?

 

2作目は長編小説細雪です。

www.shinchosha.co.jp

この小説は雑誌『中央公論』に連載予定で掲載されたのですが、時代は1943年(昭和18年)、太平洋戦争の最中。華やかな暮らしを描いた内容が「不適切だ」という理由で、当時の軍部から圧力をかけられ、連載は中止させられました。

以下にあらすじをご紹介します。

 

大阪船場に古いのれんを誇る蒔岡家の四人姉妹、鶴子、幸子、雪子、妙子が織りなす人間模様のなかに、昭和十年代の関西の上流社会の生活のありさまを四季折々に描き込んだ絢爛たる小説絵巻。

 

(―新潮社“

https://www.shinchosha.co.jp/sp/ebook/E021291/

より引用)

 

ワインやチーズを楽しむ姿をはじめ、ピクニックに出かけるシーンもあるので、グルメ小説として読んでも面白い小説です。

四季折々の日本の美しい風景やイベント、変わりゆく都市に生きる人々の姿を繊細に描いた人間絵巻

太平洋戦争中の日本で、発表を弾圧されながらも書き続け、およそ5年以上もの歳月を費やして完成した、まさに作家としての執念がこもった長編小説。

現代の日本の息苦しさの中でぜひ読む価値のある傑作です。

 

他にも処女作として谷崎の名を文壇に知らしめた短編『刺青』や、女性同士の恋愛を当事者の独白というスタイルで描いて話題となった『卍』、盲目の美女・春琴とその家に仕える奉公人・佐助の人間模様を独自の文体で物語る『春琴抄』など、世紀を越えた名作がたくさんあります。あなたもぜひお気に入りの小説を見つけてください。

 

【まとめ】

さて、いかがだったでしょうか?

谷崎潤一郎の小説や人物像について、おわかりいただけたでしょうか。

学校の教科書にも登場する文豪・谷崎潤一郎は、実はスキャンダラスな恋愛や官能的な性の世界も得意とする、ジャンルにとらわれない人気エンターテイメント作家だったのです。

なかなか遊びに出かける気分になれないときには、読書をして文豪の世界観にどっぷりハマってみませんか?